AGT column
Tell me more about AGT
№05
AGTの全自動無人運転
2022/12/08
1.全自動無人運転の起源
AGTの起源は、1975年10月に米国で運行を開始したモルガンタウンPRT(Personal Rapid Transit)です
モルガンタウンPRTは、20人乗りの小型の車両ですが、当初から全自動無人運転で運行されました。
日本でもその影響を受けて、車両メーカー各社が全自動無人運転の小型車両の開発を始めました。
1979年のオイルショックを経て1981年に運行開始したポートライナー線は、各社の試作車が小型の単車構成だったものから、経済性を優先させた6両編成の中型車両の電車構成になったものの、全自動無人運転の車両としてデビューしました。
ポートライナー初代(左)、現在(右)
ポートライナーに続く2番目のAGTとして運行を開始した南港ニュートラムも全自動無人運転車両でした。
ニュートラム初代(左)、現在(右)
その後日本では、六甲ライナー、横浜シーサイド、ゆりかもめ、日暮里・舎人ライナーの合計6つのAGT路線が全自動無人運転で運行されています。
上左:六甲ライナー、上右横浜シーサイド
下左:ゆりかもめ、下右:日暮里・舎人ライナー
2.鉄道の自動運転の取り組み
こうして、日本では全自動無人運転の実績を40年以上積み重ねてきましたが、最近、ようやく鉄道でも自動運転の試験走行が始まりました。
AGTで40年も前に実現した全自動無人運転が、何故鉄道では今頃になって動き始めたのでしょうか。
鉄道の自動運転化が遅れた一番大きな理由は鉄道の場合、レールと車輪のすべり摩擦係数が晴天と雨天の場合に異なるため、駅で決まった位置に毎回きちんと止まりにくいことにあります。
AGTの場合、コンクリートの走行路の上をゴムタイヤで走りますので、雨天の場合も晴天と同じ精度で決まった位置に停止できる点が大きく違います。
鉄道の場合でも、地下鉄でしたら、雨の影響を受けないので、地下鉄では比較的早く、全自動無人運転が行われています。
シンガポールのノースイーストラインは、2002年にアジアで最も早く全自動無人運転が始まった路線です。
また、地下鉄でなくても、リニアモータを用いた車両を用いる路線では、制動距離が短い特徴を生かして地上路線でも全自動無人運転が行われています。
1998年に運転を開始したマレーシア クアラルンプールのKelana Jaya線がそれです。
この路線は、都心部が地下鉄でそれ以外は高架軌道となっています。
最近は、海外で地上路線の全自動無人運転が増えてきています。
ロンドンのドックランドラインはその一つです。
ドックランド線
レールと車輪の粘着係数だけでなく、車両の重量の変化も、定点停止精度に影響しますので、数多くのデータをとりながら、徐々に自動運転化を進めていく必要があります。
3.鉄道の無人化
AGTの自動運転は完全無人運転ですが、日本の鉄道の自動運転は有人の運転にとどまります。
AGTのプラットホームは屋根まであるプラットホームドアで完全に仕切られ、人が軌道内に入り込むことができなくなっていますが、鉄道は、人間が軌道内に立ち入る可能性があるため、運転士が軌道前方を見張る必要があるからです。
前方監視カメラによって障害物を検知しても鉄道はゴムタイヤのAGTより制動距離が長いため、より遠くの障害物を確実に検知することが要求されます。
更に、軌道に踏切があるような路線では、自動運転は可能でも完全無人転化は難しいでしょう。
そのため、運転士が運転台のスタートボタンを押すことで加速、減速し次の駅に自動的に止まるというものにとどまっています。
この方式をとっているのは、多摩都市モノレールやリニア地下鉄の七隈線などがあります。
日本では、6路線しか全自動無人運転路線はありませんが、海外では41のAPMと呼ばれる空港のゴムタイヤの路線が全自動無人運転の実績を誇っています
シンガポールで全自動無人運転の地下鉄が20年も前に実用化されているのに、なぜ日本の地下鉄で全自動無人運転化が進んでいなのでしょうか。
それは、韓国の大邱地下鉄放火事件が2003年にあって日本では、地下鉄の無人運転化が許されていません。
そのため、自動化しても七隈線のように運転士が搭乗することになっています。
このように自動化しても無人運転化できないのであれば、かけたコストに見合うコスト削減が得られないため、自動化の機運が盛り上がらなかったためと思われます。
そんなわけで、地下鉄よりも先に全線高架の鉄道路線で全自動無人運転化が実現する可能性があります。
4.まとめ
AGTは、世界で50年、日本で40年を超える全自動無人運転の歴史があります。
日本では、毎日約46万人が全自動無人運転のAGTを利用していますが、これまで1件も死亡事故を発生させたことがないシステムであることは、もっと認識されてもよいのではないでしょうか。